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ハラナ・タカマサ

Author:ハラナ・タカマサ
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生活保守主義としての「食の安全」意識とナショナリズム67=宮崎口蹄疫騒動を検証する(第14回)第三の道? マーカーワクチン

生活保守主義としての「食の安全」意識とナショナリズム”シリーズの続報。

■前便同様、“世界の環境ホットニュース[GEN]”の最近のシリーズ、“宮崎口蹄疫騒動を検証する”の記事を転載(最新号「第15号」がすでに配信されているが、後日)。


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世界の環境ホットニュース[GEN] 767号 10年8月4日
……

         宮崎口蹄疫騒動を検証する(第14回)

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 宮崎口蹄疫騒動を検証する         原田 和明

第14回 第三の道? マーカーワクチン

 山内一也・東大名誉教授は「連続講座 人獣共通感染症」(日本獣医学会のホームページ)で口蹄疫の問題をとりあげておられ、この連載でも引用させていただきました。もし、山内氏がご健在ならば、氏の考えとはかなり異なった対応となった今回の「宮崎口蹄疫騒動」に対し、何がしかのコメントを出されるのではないかと期待していましたが、民間の種牛さえも殺処分された後になって、朝日新聞がコメントを掲載しました。


朝日新聞 朝刊 2010年7月23日(金)より以下引用。(※1、※2は筆者)

 殺処分減らせた可能性 口蹄疫対応識者が指摘

 家畜の伝染病、口蹄疫のため、宮崎県では 約28万9千頭の家畜が殺処分された。この中には、発生が集中した県東部で、感染拡大を抑えるために、健康な家畜にワクチンを接種して、その後に殺処分された 約12万6千頭も含まれる。この対策に家畜伝染病 対策の国際組織である国際獣疫事務局(OIE)の学術顧問を務める山内一也・東大名誉教授(79)が疑問の声を上げている。欧米ではワクチン接種しても、殺さなくて済む方法への転換や研究が進んでおり、日本も採用していれば、殺処分を大幅に減らせた可能性があるという。

 ワクチン接種後生かす道も

 山内さんによると、欧米の口蹄疫対策は2001年の英国での大発生を機に転換。600万頭もの羊や牛などが 殺処分となった反省から「殺すワクチンではなく生かすワクチンを」という機運が高まり、抗体が自然感染によるおのか、ワクチン接種によるものかが判別できる「マーカーワクチン」が実用化された。
 
 OIE の国際規約では、「汚染国」と認定された国が発生の恐れがない「清浄国」に戻るには、
 
 1) 殺処分だけの場合は感染例が無くなってから3ケ月後
 2) 殺処分に加え、ワクチン接種をした場合は 接種された動物を殺処分して
 から3ケ月後、となっていた。

 OIEは 02年の総会で、ワクチン接種した家畜に自然感染による抗体がないことを証明すれば、6ケ月後に清浄国に戻れる「第3の選択肢」を加えた。その場合、殺処分は接種した家畜すべてではなく、自然感染による抗体があるものだけでよい。

 欧州では自然感染による抗体の有無を識別する研究が進んでいる。市販検査キットが01年に発売され、市販の4種と研究所で作った2種のキットを各国の研究者が比較評価した成績や、自然感染した数千頭単位の家畜について抗体検出の信頼性確認の成績も報告されている。

 宮崎で起用されたのもマーカーワクチンだったが、実践はされなかった。背景には、国内でこうした検査法があまり知られておらず、研究もされていないことがあるとみられる。(※1)山内さんは「国連食糧農業機関(FAO)が派遣を提案した口蹄疫専門家チームお受け入れを政府は断ったが、もし専門家が加わっていれば、欧州のこの10年の取り組みの成果を生かす方法があったのでは。殺処分家畜が少なくて済んだ可能性もあり、再発に備え研究課題にすべきだ」と提言している。(※2)

 今回の口蹄疫対策を検討した農林水産省の牛豚等疾病疾病小委員会の事務局である動物衛生課は「発生次点は殺処分を優先する。今回は埋却地が間に合わない問題もあり、ワクチンで広がりを抑え、殺処分をする対応をとった。ワクチン接種をした家畜を残す議論はしていない」(※3)
(引用終わり)

 この記事の残念なところは、もめにもめた宮崎の民間種牛さえも殺処分され、すべてが終わったという喪失感の中で掲載されたことです。ですから、記事を読んでも「何をいまさら・・」という失望感というか、「もっと早く発言してくれていたら違った展開もあったかもしれないのに・・」という脱力感が強く残ることです。

 朝日新聞は、山内氏へのインタビューをいつ行なったのでしょうか? 当事者に聞くしかないのですが、少なくとも、7月上旬以前だったと思われます。

 というのは、山内氏が「市販の抗体検査キット」に言及しているからです。東国原知事の認識では「因みに、抗体検査はその専門性から国にしか出来ない」(「そのまんま日記」7月13日)だから、薦田さんの種牛の抗体検査をするしないでもめたのです。世界の研究者が確認した「市販の抗体検査キット」があり、ある程度の知識があれば検査可能ならば、山内氏は「これを使え」とアドバイスしただろうし、記者も気付いたと思われます。ところが、そのことにはスルーされていますので、この取材は、少なくとも薦田さんの種牛問題が浮上した7月6日より前だったと推測されます。

 さらに、踏み込んでいうと、私は農水省が「ワクチン接種して全頭殺処分」という決定を出してから数日以内(5月下旬)に、朝日新聞は 山内氏に取材を申し込んだのではないかと考えています。

 全頭殺処分という日本初の口蹄疫ワクチン接種政策には、当初拒否の姿勢を示していた畜産農家は多数あり、地元の首長たちも農水省に対し異論を唱えていました。健康な家畜さえも全頭殺処分という衝撃に、地元からの強烈な反対表明という事態の中で、新聞記者が農水省の政策の是非について専門家に見解を求めるというのはニュース価値も高く、記者として当然の行為だと思われます。それに対し、ほとんど終息した時期に取材するのは、いかにも間が抜けています。

 ところで、記者が誰に取材しようかと考えた場合、「連続講座 人獣共通感染症」(日本獣医学会のホームページ)の第116回「口蹄疫との共生」(2001年4月24日)で、「殺さない口蹄疫ワクチンの可能性」について言及している山内氏以上の適任者はいないでしょう。(以下引用)

 先月(2001年3月)、私はヨーロッパでこの領域の専門家と会って話しましたが、やはりマーカーワクチンの必要性に賛成の意見でした。
 
 現実には、現行の不活化口蹄疫ワクチンから一部の蛋白部分を除いたマーカーワクチンができてはいるようです。当面はこのワクチンでも大量殺処分を回避できることが期待されます。
 
 新しいワクチン開発の技術を応用すれば、それよりも高い免疫力を持つ有効なワクチンの開発も可能と思います。口蹄疫ウイルスの侵入は起こりうるという前提で、動物を大量に殺すことなく、感染の広がりを阻止することを真剣に考える時代になっていると思います。ワクチン領域ではそれだけの技術進歩はすでに得られているはずです。
(引用終わり)

 この確信に満ちたコメントに対し、朝日新聞の 記事にある 山内氏のコメント(※2 部分)はいかにもよそよそしい感じがして違和感があります。「連続講座」と同じ山内氏なら、もっと力強く「家畜は殺さない」ことを強調したメッセージを出したのではないかと思われます。

 取材を終えた朝日の記者は、山内氏のメッセージに対する見解を農水省動物衛生課に求めたことでしょう。その支離滅裂な回答から、動物衛生課が山内氏のメッセージに激しく動揺したことがうかがえます。「埋却地が間に合わない問題もある」から、健康な家畜まで全頭殺処分する? 埋却地が足りないなら殺さないで済む方法を考えません? ところが、「ワクチン接種をした家畜を残す議論はしていない」ではお話になりません。

 山内氏のメッセージを聞いた農水省動物衛生課は朝日新聞の上層部に掲載の延期を申し入れたのか、あうんの呼吸で朝日新聞社側が掲載を自粛したのかはわかりません。しかし、篠原 副大臣への 集中攻撃となった 7月22日の記者会見(第13回、GEN766)からは、新聞社が農水省に恩を売ったということもありうることと思いました。

 ところで、東国原知事は 7月下旬の掲載でもガッカリしていませんでした。さっそく「そのまんま日記」の中で、農水省の対応について疑問を呈しています。(「そのまんま日記」7月23日より以下引用)

 ワクチネーション実施(本県はマーカーワクチン採用)のとき、ワクチンを打ったらとにかく殺処分としていた国の主張・対応はどうなるのか? ならば、今回どうして殺処分ありきになってしまったか?・・・・新聞によると、国内でこういう検査法があまり知られておらず、研究もされていないことが背景にあるという。果たして、国のワクチン接種方針は正しかったのか? 今後の検証が必要だろう。(引用終わり)

 東国原知事の疑問を検証してみます。
※1)「宮崎で起用されたのもマーカーワクチンだったが、実践はされなかった。背景には、国内でこうした検査法があまり知られておらず、研究もされていないことがあるとみられる。」の部分。

 これは、農水省の立場を代弁して擁護する朝日新聞社の言い訳にしか聞こえません。口蹄疫の抗体検査は動物衛生研究所でしか行なっていませんから、国内の他の研究機関が知っておく必要もなく、ましてや研究する必要もありません。ワクチンを輸入した農水省ないし、抗体検査を行なう動物衛生研究所が知っていればよいことです。朝日新聞は、弁護するのではなく、農水省がマーカーワクチンであることを知らずに購入していたのかを確認すべきです。

 さらに、「ワクチン接種をした家畜を残す議論はしていない。」(※3)の部分には、重大な疑惑があります。農水省が「残す方法があることを知らなかった」はずはないのです。ワクチン接種を答申した際に、記者会見に応じたのは、ワクチンの輸入元とみられる共立製薬(株)の先端技術開発センター長でもある寺門誠致(のぶゆき)委員長代理でした。彼はもともと、牛豚等疾病小委員会のメンバーではなく、4月20日(口蹄疫疑似患畜 第一号発表の日)に臨時委員として参画しています。(第4回、GEN756)しかも、寺門の前職は家畜衛生試験場(現在の動物衛生研究所)のトップでした。(共立製薬(株)のホームページ)

 つまり、農水省が寺門を急遽、委員長代理で牛豚等疾病小委員会に参画させたということは、口蹄疫疑似患畜第一号が発見された日から農水省にはワクチン接種が視野に入っていたということです。

 彼は現在のポストからも経歴からも当然、農水省が購入した口蹄疫ワクチンが「家畜を殺さずに済む」マーカーワクチンであることを知っていなければなりません。ところが、牛豚等疾病疾病小委員会の事務局は「ワクチン接種をした家畜を残す議論はしていない。」という。マーカーワクチンが手元にあるのに、最初から「全頭殺処分ありき」というのはとっても怪しい感じがします。

 ここで思い出すのは、5月末からワクチン接種が原因と見られる 口蹄疫の流行があったことです(第7回 GEN760)。農水省が購入した口蹄疫ワクチンは、マーカーワクチンという最新式のものではなく、粗悪品だった可能性はないのでしょうか?

 ちなみに、2009年9月17日に農水省 消費・安全局が「口蹄疫ワクチンの輸入に係る確認書の交付について」なる文書を出しています。これによると、口蹄疫ワクチンを輸入する場合は、農水省消費・安全局が承認した確認書を、申請時に提出しなければならないこととなっています。承認される条件は、口蹄疫ワクチンの中身ではなく、輸入業者が家畜伝染病予防法第50条の規定に基づく都道府県知事の許可を受けた者であるかどうか、です。農水省以外の者が口蹄疫ワクチンを購入するはずもなく、購入者が輸入業者を選別し、そのワクチンの中身は業者任せとなっているような感じがしますが・・・。

 さて、ワクチン接種の答申が5月19日で、ワクチンの宮崎到着が5月20日夜、国連食糧農業機関(FAO)が派遣を提案した口蹄疫専門家チームの受け入れを 日本政府が断ったのは5月21日以前(5月21日共同通信)ですから、この流れでは、

1)日本が初めてワクチン使用を決断したとの情報をFAOが聞きつけて、マーカーワクチン使用に関する技術指導(家畜を殺す必要がない)を日本政府に申し出た。
2)ところが農水省は、余計なお節介とばかりに、口蹄疫 専門家チームの派遣提案を一蹴した。
3)その頃に、朝日新聞の記者が山内氏に取材を申し込んだ。

 と考えるのが自然な感じがします。口蹄疫専門家チームが日本で何をするかは、当然派遣を提案した時点で、FAO が日本政府に説明しているはずです。日本政府(農水省)は、その説明を聞いて受入を断ったと考えられます。

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■先日、NHKの「クローズアップ現代」でも、イギリスの口蹄疫対応の経験と現状を報告していたが、そこでも、いかに 即応体制をとるかばかりが強調されていた。■しかし、原田さんや山内さんたちの議論が、全然浮上しないというのは、ある種、おそろしいハイパー独裁の現実をうらがきしているといえそうだ。
【かきかけ】
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タグ : ハイパー独裁1984年真理省安全

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